先月、欧州心臓病学会(ESC:The European Society of Cardiology )は急性/慢性心不全の診断、治療ガイドラインを5年ぶりに改訂しました。
心不全の症状については、去年🔗動画(医学日本語学習用)を作ったのでこちらをご参照ください。
この図は左室駆出率(Left ventricular ejection fraction:LVEF) が40%以下の心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)の新しい治療アルゴリズムです。
従来のACE阻害薬(Angiotensin-converting enzyme inhibitors)、Bブロッカー、MRA(mineral corticoid receptor antagonist)と利尿薬に加えて糖尿病治療薬であるSGLT2(Sodium-dependent glucose cotransporters 2)阻害薬であるダパグリフロジンとエンパグリフロジンが追加されました。さらにARNI(Angiotensin Receptor-Neprilysin Inhibitor)が早期に使われるようになったことも新しく盛り込まれています。
- 3カ月以上経過しても改善が見られない場合は、デバイス治療を検討し、LVEF 35%以下、QRS幅130ミリ秒未満の場合は植え込み型除細動器(ICD)
- 洞調律でLVEF 35%以下、QRS幅130ミリ秒以上の場合は心臓再同期療法〔CRT、両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)/両心室ペースメーカー(CRT-P)〕が推奨されました。
HFmrEFの診断基準にも変更があり、LVEF 41〜49%が前提のもと、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の上昇やその他の構造的心疾患は必須基準ではなくなり、診断の可能性を高めるものとされました。
また、心毒性のリスクが高いがん患者に対し、抗がん薬治療の前に循環器専門医が心血管評価を行うことが示されました。
台湾ではドキソルビシン(doxorubicin)を小紅莓と呼び(見た目が赤い為)、悪性リンパ腫の化学療法で用います。ドキソルビシンはアントラサイクリン系で「心筋」障害型、抗HER2抗体はタイプⅡ「心機能」障害型の心毒性で、分類が異なります。
心不全を引き起こす可能性のあるがん患者さんにおいては、心エコー(LVEF等)、心電図(不整脈等)、胸部X線(心胸郭比等)、心筋トロポニンT・BNPなどのバイオマーカー等によるモニタリングを行い、アントラサイクリン系薬剤の累積総投与量に注意しましょう。
参考資料:2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure
早稲田大学&大学院で医療人類学修了、姉妹校の高雄医学大学医学部編入、医師免許取得後、台南の医学センターで研修を終え、消化器内科フェロー、チーフレジデント。台南出身の妻と娘の三人暮らし。早大時ヒマラヤ未踏峰初登頂(6,650m)を果たすが、登山パートナーの死を契機に医学の道へ。日本の鍼灸国家資格も取得済で東西の医療に通じた総合診療、消化器内科医を目指す。
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