答えが一つではない臨床現場では、どの治療方法が今のベストなのか、それに至るまでの診断に問題はないのか等、仕事が終わってもずっと考え、論文や教科書を探したり、先輩医師などに教えを請うことが多々あります。
日常業務で忙しい先生の下だと相談しづらい雰囲気があり、急ぎではないけれど細かいことでどうしたらよりうまくいくのか悩むことがあります。こういったときにサポートしてくれるのがチーム内の経験深い看護師さんで、台湾ではナース・プラクティショナー(Nurse Practitioner:診療看護師、以下NP)がレジテント医に近い仕事をしています。
先週日本のニュースで、NPに関する記事を読んだので、日台の看護師制度と役割の違いをごく簡単に紹介します。
医師の“働きすぎ”背景に誕生…医療行為できる看護師『NP』に高まる期待と問われる責任 2021/11/3
日本の看護師のキャリアアップの資格として代表的なのは上記のNP以外に、専門看護師(CNS:Certified Nurse Specialist)、認定看護師(CN:Certified Nurse)と認定看護管理者(CNA:Certified Nurse Administrator)があります。専門看護師は専門知識や技術だけでなく、患者や医療機関などの調整、また研究なども行う看護分野全体の専門家で、認定看護師は現場の臨床看護における専門家だと言えます。これらは看護系大学院修士課程修了者+実務研修通算5年以上などの審査、さらに筆記試験合格ののち該当看護協会から認定され、5年ごとに更新されます。いずれも民間資格で、国家資格制度化の要望提出がされています。
台湾では2006年からNP国家試験が始まり、2019年11月までに8515人が登録しています。衛福部の資料によると、内訳は一般内科が4,112人(48.2%)、精神科221人(2.6%)、小児科176人(2.1%)、一般外科3,865人(45.4%)、産婦人科141人(1.7%)となっています。NPの仕事内容は患者さんへの病歴聴取のほかに、理学検査から治療等、レジテント医とほぼ変わらない業務を行っています。
台湾のレジテント医研修は幅広く疾患をみれるように、後期でも一ヶ月ごとローテンションで回ることが多く、日本のように専門病棟で特定分野の疾患を扱うようなシステムを導入している病院は少ないです。そのため、台湾では〇〇○内科を志望していても後期3年間は○○○内科をまわる時間が多くなるということはなく、内科専門試験を経てフェローになってからその領域の知識や技術を深めるようになります。
ここで特定の専門科にフィックスしているNPが不慣れなレジテント医を助け、スタッフドクターや他の医療スタッフをつなぐ大事な潤滑油になります。たとえば化学療法や免疫抑制剤などの薬は経験のあるNPのほうが、毎月入れ替わるレジデント医よりも円滑にオーダーを出すことができます。
また気難しい先生の下についても、NPのほうが職歴が長かったりするので、若い先生が人間関係で悩んでもサポートしてくれるのが有り難いです。
台湾のNPはレジデントと違い基本的に当直がなく、CVCやDouble lumenなどの処置もしませんが、日本ではPICCをやっているNPもいるようで、一部の技術熟練度は日本の方が進んでいるようです。
上記の記事にあるように、医療行為ができるNPが日本社会に浸透していくのかどうか、海外の制度と比較するとよりクリアになると思います。
私も日頃からのサポートに感謝しがんばります。
早稲田大学&大学院で医療人類学修了、姉妹校の高雄医学大学医学部編入、医師免許取得後、台南の医学センターで研修を終え、消化器内科フェロー、チーフレジデント。台南出身の妻と娘の三人暮らし。早大時ヒマラヤ未踏峰初登頂(6,650m)を果たすが、登山パートナーの死を契機に医学の道へ。日本の鍼灸国家資格も取得済で東西の医療に通じた総合診療、消化器内科医を目指す。
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