本日10月24日、第三回例会/講演会が三道門建築文創ホテルにて開催されました。
エレガントな三道門ホテルについては、こちらのページに別途紹介文を載せています。
講演は二本立てで、前半は仁泉(にいずみ)優香さん(国立台南大学幼児教育学科4年生)に「私と台南留学」、後半は佐藤あさえさん(国立成功大学外文系修士課程修了)に「日台ハーフとバイリンガル教育」というテーマでお話いただきました。
テーマ柄、日本人留学生の方も多数足をお運びくださり、講演会始まって以来の盛況ぶりでした。
仁泉さんは広島県福山市のご出身。高校一年生の時、通われていた高校の姉妹校が台南にあった機縁から台南に短期留学し、地元の人々の温かさに触れ、その後も台南への修学旅行、二度目の短期留学を経て、台南の大学に進学することを決意されました。
驚かされるのはその行動力です。地元に中国語を学べる予備校がなかったため、高三の時は放課後、新幹線で広島市まで通い、深夜に高速バスで帰宅という毎日を過ごし、卒業後も毎日その予備校でみっちり中国語を学ばれたとのこと。
子供の面倒を見るのが好きだったことから、大学では幼児教育学を専攻。留学生の交流サークルの幹部を務めたり、大学の日本語授業で助手を務めたり、学科の幹部(運営委員的なものでしょうか)を務めたりと、学業以外にもアクティブにさまざまなことに取り組まれてきました。
お話から深く感じられたのは、難問にぶつかった時、まっすぐに向き合い、時間をかけて解決策を模索していこうとする忍耐強さと誠実さ。それから日々人々や町の風景を観察し、よいところを見出していこうとする、ポジティブな繊細さです。
たとえば、初めて台湾の子供たちに接した時、その話し方が大人たちの話す中国語とは違ってほとんど理解できなかったこと。また日本語を教えたり、日本文化を紹介する際、自分の知識が不十分であることに、しょっちゅう気づかされること。そうした困難を、自らを成長させるきっかけと見なして努力を重ねてこられました。
もう一つ感じられたのは、仁泉さんの台南愛です。日頃から徒歩で移動しており、細い路地にお洒落なお店を見つけたり、日々発見があるとのこと。カフェがお好きで、色々な店を巡ったり、休日には郊外へ足を伸ばして大自然に触れたりと、台南生活を満喫しておられる様子が伝わってきました。
台湾に留学中の皆様や、留学を考えておられる皆様も、仁泉さんのように日頃から学校外のさまざまな場所へ足を伸ばしてみると、より充実した留学生活が送れることと思います。
佐藤さんはお母様が台湾人、お父様が日本人で、日本で成長されました。
日本の大学(英語学科)を卒業後、高雄の国立中山大学に交換留学し、その後国立成功大学外文系で修士号を取得されました。
講演テーマは「日台ハーフとバイリンガル教育」。バイリンガルとは何か。佐藤さんは「二つの言語を母語レベルで話せる人」と定義されました。並大抵のことではないことは、容易に察しがつきます。
大概の場合、成否を最も大きく左右するのは家族の教育方針でしょう。お母様は明治大学を卒業されていますが、教育のためかたくなに中国語しか口にせず、その上佐藤さんが日本語を使うことも許されなかったそうです。そのため佐藤さんが幼い頃には、世の中には「お母さん語」と「お父さん語」の二つの言葉があると思っていたとか。また一年のうち数か月は台湾の学童保育に通い、中国語にどっぷりつかっていたそうです。
小学校高学年まではとにかく目立ったり、からかわれるのが嫌で、友だちが家に来たときにはお母様に何も話さないでとお願いしたり、一時期お母様と話すことを完全に止めたりしたこともあったとか。けれどもときどき、中国語を話せることで「すごいね!」と褒められたりもして、二つの相反する評価の間で戸惑いを覚えていました。
その気持ちは中学校に進むと、「悪くないかも」というポジティブなものに変わっていきます。英語がとても得意だったそうですが、発音や文法をスムーズに習得できたのは、下地に中国語のスキルがあったからとも考えられるそうです。また中国語の資格を有していると、大学の推薦入試でも有利に働くのを知ったりもしました。
そのように生い立ちを振り返られた後で、バイリンガル教育に取り組もうとされている方々に、自身への反省を込めた3つのことを提言されました。「ボギャブラリーを増やす」「自然に話せる環境を作る」「堂々とする」というものです。
どんな社会でも、言語には常に上下関係が付与されるものです。ことに日本社会で、日本語以外の言語を母語をする人は、自信を喪失させられるような状況に陥ることがままあります。何語であれ、自分の話す言葉に自信をもつこと。それが言語スキル向上のためにも、非常に大切な条件でしょう。
なお佐藤さんはこれまでも本協会HP上に、お金や寮生活を含めた留学体験の紹介記事をたくさん書いてくださっています。ご関心がおありの方は、ぜひお目通しください。
佐藤あさえの台南留学日記
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来月の例会/講演会は11月23日(火)18:30~20:30に、交流協会高雄事務所所長の加藤英次氏と、台南の弁護士の頼婷婷氏を講師にお迎えして、榮美金鬱金香酒店(ゴールデンチューリップホテル)(台南市北區海安路三段50號)にて開催予定です。詳細は後日あらためて告知いたします。
(だいどうあつし) 作家、翻訳家、三線弾き。1984年東京生まれ。「人がより自然に、シンプルに、活き活きと暮らせる町」を求めて、2012年より台南在住。日本蕎麦屋「洞蕎麥」を5年間経営後、翻訳事務所「鶴恩翻譯社」を運営。日本語著書『台湾環島 南風のスケッチ』、中国語著書『遊步台南』、共著『旅する台湾 屏東』、翻訳小説『フォルモサに吹く風』『君の心に刻んだ名前』『台湾 和製マジョリカタイルの記憶』。
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