【月一コラム みんなの台南生活】(4)台南ロケ地映画『弱くて強い女たち』

台南市日本人協会の会員より、毎月1回、台南生活コラムをお送りいたします。

目次

台南ロケ地映画『弱くて強い女たち』
文/福田雄介

映画のスクリーンを通して見る街の風景はいつも特別なものです。普段見慣れた風景でも、映画を見た後はどこか輝いて見えます。ただ残念なことに映画はいつまでも変わりませんが、生きている街は日々刻々と変化し、いつかフィルムの世界から離れてしまいます。

1997年春、のちに台湾に留学するきっかけとなるある映画と出会いました。『恋する惑星』──王家衛(ウォン・カーウァイ)監督、王菲(フェイ・ウォン)、梁朝偉(トニー・レオン)、金城武主演の香港映画です。18歳でこの映画に出会い、熱狂し、私はロケ地をめぐるため香港へ向かいました。
 

物語のメイン舞台となった蘭桂坊にある「ミッドナイト・エクスプレス」。1998年訪問時、少し改装されてましたが、皆様ご存じ!あの店は健在でした。ここで王菲がカリフォルニアガールの歌に合わせてケチャップとマヨネーズを持って踊り、梁朝偉が「What A Difference A Day Makes」をバックに照れながら王菲をデートに誘う!数々の名シーンを生み出したあの店です。今は何の変哲もないセブンイレブン(!)になってしまいました。本当に残念でなりませんね。世界遺産として保存すべきでした。

ミッドナイト・エクスプレスの筆者

映画公開から27年も経ってしまった現在の香港では、重慶マンションはかつての喧騒はどこへやら、小奇麗になってかつての雑多で混沌とした面影をなくしました。ビルの合間を抜ける着陸でお馴染みのパイロット泣かせの啓徳空港は1998年に閉鎖。観光地として有名なミッド・レベル・エスカレーターを除き、香港の発展とともに『恋する惑星』ロケ地はほとんど姿を消してしまいました

さて、前向きが長くなりました…。今日は台南で撮影された映画『弱くて強い女たち』をご紹介いたします。現在NETFLIXで日本語字幕版もご覧になれます。以下ほんの少しネタバレもありますので,もしよければぜひ先に作品をご覧ください!

中国語タイトルは『孤味』。主演の陳淑芳は本作で金馬奨の主演女優賞を受賞しました。また日本でもお馴染みのビビアン・スーが娘さん役で出演しています。本当にいくつになられても変わらず美しい…。

夫を亡くした老女性、夫の愛人だった女性、夫婦の間にいた3人の娘たちが様々な葛藤、障害やストレスを抱え、苦しみながら、それでも強く逞しく生きてく姿を描いています。

物語は20年音信不通だった祖父がなくなったところから始まります。離れてバラバラに暮らしていたが、葬儀の準備のために集まる家族一同。トラブルばかり起こして自由気ままに妻の元を去った男がとうとう亡くなり、その知られざる過去が明るみになる中、各々が自分の人生を振り返り、衝突と和解を繰り返しながら、夫婦、親子関係を見つめ直す。同じようなテーマでは盧廣仲主演のドラマ『花甲男孩轉大人』が有名ですね。日本でもお葬式を題材にした作品が多くありますから、普遍的テーマといえるでしょう。

日本と台湾の葬式の違いも本作では知ることが出来ます。台湾では“頭七”という習慣があり、亡くなっても最低1週間は葬儀が行われません。この7日間に死者の魂が家族の元に戻り、その時に死者は小動物、昆虫の姿で現れると言われています。主人公の阿嬤(アマー)が遺体近くにいたゴキブリを思わず殺してしまい、家族が慌てふためくシーンはそういう意味があったんですね。この七日間、残された者は家族の死と向き合い、人生を反芻して、再び前を向いて生きる、そのための大切な時間になるようです。

さて、映画では台南らしい古都の街並みや美しい海辺の風景がシンボリックにスクリーンに映し出されます。冒頭の海鮮市場は安平漁港。主人公である阿嬤は台南名物・海老春巻きを屋台から始め、立派なレストランにまで成長させたやり手の経営者。この設定も台南らしくていいですね。さらに皆様お馴染みの台南駅の円環と構内ホーム、また70歳の誕生日会が開催されるシーンで登場するのが安平郷土文化館です。こちらは安平老街の非常に狭い路地の中にありますので、道に迷いながらゆっくり探索してくださいね。

安平郷土文化館の入口
安平郷土文化館入口にある映画のシーン
安平郷土文化館の古木

個人的にとてもおすすめなのが娘の一人が元カレと会話を交わすシーン。台南のオアシス、漁光島、四草大橋、橋頭海灘公園で撮影が行われました。シリアスなセリフと美しく蒼い海がマッチした、象徴的な名シーンです。近くに有名な台江国家公園がありますので、一緒に観光するのがおススメです。お寺のお参りのシーンでは、安平からもほど近い鹿耳門天后宮が登場します。ここは台湾の文化と切っても切り離せない道教の女神である媽祖が祀られていてます。

四草大橋
橋頭海灘公園
鹿耳門天后宮の内部
鹿耳門天后宮の外観

台南の変化は早いけど、古いものを大切にする街。きっと何年経ってもフィルムのままの風景が残ってそうですね。本作ロケ地は台南にお住まいの方には馴染み深く、割と近いところばかり。映画をご鑑賞のあとはのんびりとロケ地巡りをされてはいかがでしょうか?

参考サイト
《孤味》旅行地圖,邀請市民朋友看完電影,不妨來場「孤味小旅行」
https://www.tainanoutlook.com/blog/guomiethefilm

※このコラムの内容に関連して、台南・安平路地裏散歩の動画も公開しています。

文/福田雄介(ふくだ ゆうすけ)
台南日本人協会理事。1977年神戸生まれ。1999年台北語学留学をきっかけに台湾に永住することを決意し、2005年より台南で飲食店をオープン。現在は成功大学付近で『神戸厨房』を経営中。二児の父。趣味はKindleでSF小説を読むこと。

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